2009年6月12日金曜日

本読みが嫌いだ

ここにろくでもない感想文を書いている通り、最近はよく本を読む。
あるきっかけで1年ほど前から、通勤電車内で本を読む習慣になったからだ。
本を読んでいると、数十分にわたる乗車時間が短く感じられるのが素晴らしい。そう、思い切り暇つぶし目的だ。

とは言え、せっかく読むので、面白そうだと思うモノを選ぶようにしている。
どこかで聞いたことあるとか、1冊読んで面白かったからシリーズの続きを選ぶとか、その程度の基準ではあるが。

ただ、それでもネタに詰まると、「おもしろい小説」とか身も蓋もないキーワードで検索したりして、適当なものを探してみることがある。

リンクを辿って、自然と、「本好き」「読書家」のブログか何かに辿り着くことがある。

世の中の本読みの人たちは、随分とたくさんの本を読むようだ。よくもまあ、と思うほど読む人々が多いらしい。

だが、どうも、その手の人々の言説は、いちいち首をひねりたくなる者が多い。さすがは読書家を自認する人びと、滔々と豊富な語彙で語られる読書論?は淀みなく隙もない。

ような気もする。のだが、どうも、なるほど!とか思うようなものが何もない。しかし、そんなサイトのコメント欄など見ると、同好の士からの同意と共感の声が並んでいたりする。


なんというか、何なんだろう。俺が、読書の真の価値?のようなものを理解しない低能だから、その高度な論理、議論についていけてないのだろうか。それで、その共感を俺は感じられないのだろうか?



…もちろん、そんなことは鼻くそほども思ってはいない。中学生の頃から読書好きを自認する級友と話をすると反吐が出る思いだった。だから小説を読むことすら嫌いになっていたのではないか、と思えるくらいだ。

幸い、今の俺は、「本当の本好き」の人びとと、本そのものを糞味噌にするほど若くない。成長は素晴らしいな。

2009年6月9日火曜日

【膚の下】なんとも独特の世界観


淡々としていて、それでいて濃い。くどいくらいに濃い。

面白いのだが、背表紙だけ見た妻にエロ小説かと疑われた。


この話は、実は三部作の三作目だ。ただ、作品内の時系列では三部作の冒頭だ。

ただ、話としては独立していて、順番は気にせずに読んでも、それぞれ不都合なく読めるようにはなっている。

どこまでも平和な解決を求めつつ、どうにも切ない。なんだろうねこれは。SFの設定としては結構ぶっ飛んでる方だし、ある意味、その心情的なものも含めて、大人向けのお伽噺のような感じかも知れない。

まあ、結論としては、とても面白かった。

【巨人たちの星】ダンチェッカーが止められない


「星を継ぐもの」「ガニメデの優しい巨人」に続く三作目。まだ続きもあるようだが、本来はここで完結だと思う。なぜなら、この三作目のラストで、見事に一作目で提示されたうちのもっとも根本的な謎について、見事に回答するからだ。

相変わらず派手な艦隊戦はない…んー、実際ないが、ここにきて若干のアクションは入る。話は太陽系を飛び出して、途方もなくスケールアップする。

全体に対して比重は軽いものの、いくらかロマンス要素も増え、最近のSFのスタイル?になって来ているのかも知れない。

しかし、特筆すべきは、ますます冴えるクリス・ダンチェッカーの論理だ。もはや痛快の域に達っしている。理屈を語るだけでそう思わせるキャラクターというのもなかなかない。いや、戦わないキャラクターは他にもいるだろうが、そうではない。ダンチェッカーは、知謀も策略も何もないのだ。ただ、事実を観察し、それを考察し語るだけ。

そう、今気づいた。ダンチェッカーはたぶん、俺が昔に憧れた科学者の姿なのだ。ただ事実を事実として、論理を論理として語る。本物の学者の大部分はそれのみではないようだと知って、俺は科学者を目指すのを止めてしまった。俺ももう大人だし、研究も資金がなくては出来ないという事実も知っているので、簡単に学会批判をしたいわけじゃないが、幻滅したのは確かだ。

だが、こうあって欲しい、と思っていた科学者たちが、このシリーズにはいる。それで…それが、面白いのだろう。

やはりダンチェッカーはヒーローだ。禿げて頑固なジジイでも。

「科学」という言葉に何か感じるところがある人も、そうでない人も、ぜひ読んでみるとよい物語だと思う。

【ガニメデの優しい巨人】ヴィクター・ハントの影が薄くなりつつある


前作、「星を継ぐもの」の続編。とは言え、とって付けたようなパート2ではなく、前作では明らかにされなかった大きな謎の数々に答えが与えれていく。

事実が1つ明らかになるごとに、新たな謎が次々と現れて行くのだが、その展開も見事だ。ただ、謎の内容は前作以上に科学的にマニアック?になっており、ある程度の自然科学系の素養(高校の生物を覚えてる程度でいいと思うが)がないと、つらくなってくるかも知れない。

が、俺には面白かった。なので、すぐにさらに続編を買った。

【星を継ぐもの】科学の小説


たぶん、男前で切れ者の原子物理学者のハントが主人公のはずだ。きっとそうなのだ。だが、気づいてみると、本当のヒーローは禿げた金縁眼鏡の生物学者のクリス・ダンチェッカーではないか、という気になってくる。

海外SF、ファンタジーには、ジジイがヒーローの作品がしばしばある。脇役にかっこいいジジイがいるんじゃない。あくまで主役級で。ドラキュラのヴァン・ヘルシングや、古くはホビットのガンダルフなども。

最近のライトノベルなどの、可愛らしい少年少女が主要な登場人物である話も、別に嫌いじゃない。だが、ダンチェッカーその他のいぶし銀の魅力は、やはりなんとも言えない味わい深さがある。


「星を継ぐもの」と言えば、最近ではZガンダムの映画のサブタイトル、古くはジャンプで短命の名作として名高いSFマンガ(自在剣と書いてスパイラルナイフと言って、何人が思い出せるだろう)などが思い浮かぶが、この小説が元祖であり、それらにモチーフを与えた存在なのだろう。

国連による惑星間航行技術の実用化がなされた近未来で、月の裏側の秘密、宇宙人と人類の起源といったテーマを背景に物語が展開するのだが、この一見なんともありきたりな題材、そしてたいしたロマンスもなし、対艦にせよ対人にせよ戦闘もなしでありながら、読み始めると止まらない面白さだ。

特筆すべきは、そのリアルな「科学」界の描写。科学のものの考え方、学者のものの考え方(これらは似て非なるものだ)が、自分もかつて自然科学分野の日本(ホゲ)学会に所属していた俺から見ても、とてもリアルで面白い。もちろん、小説として実際のものよりエキサイティングに描かれているとは思うが、実情を知っていてそれを脚色しているという感じで、想像だけで描かれる「科学者」「博士」像とは一線を画していると思う。

それだけに、もしかしたら面白くない人には全然面白くないのかも知れないが、そのケのある者が読めば、知的な興奮、論理の楽しさ、そういったものに引き込まれること請け合いだ。

実に面白い。おすすめだ。読んだら仕事にも役立つこと間違い無しだ。