2009年6月9日火曜日

【星を継ぐもの】科学の小説


たぶん、男前で切れ者の原子物理学者のハントが主人公のはずだ。きっとそうなのだ。だが、気づいてみると、本当のヒーローは禿げた金縁眼鏡の生物学者のクリス・ダンチェッカーではないか、という気になってくる。

海外SF、ファンタジーには、ジジイがヒーローの作品がしばしばある。脇役にかっこいいジジイがいるんじゃない。あくまで主役級で。ドラキュラのヴァン・ヘルシングや、古くはホビットのガンダルフなども。

最近のライトノベルなどの、可愛らしい少年少女が主要な登場人物である話も、別に嫌いじゃない。だが、ダンチェッカーその他のいぶし銀の魅力は、やはりなんとも言えない味わい深さがある。


「星を継ぐもの」と言えば、最近ではZガンダムの映画のサブタイトル、古くはジャンプで短命の名作として名高いSFマンガ(自在剣と書いてスパイラルナイフと言って、何人が思い出せるだろう)などが思い浮かぶが、この小説が元祖であり、それらにモチーフを与えた存在なのだろう。

国連による惑星間航行技術の実用化がなされた近未来で、月の裏側の秘密、宇宙人と人類の起源といったテーマを背景に物語が展開するのだが、この一見なんともありきたりな題材、そしてたいしたロマンスもなし、対艦にせよ対人にせよ戦闘もなしでありながら、読み始めると止まらない面白さだ。

特筆すべきは、そのリアルな「科学」界の描写。科学のものの考え方、学者のものの考え方(これらは似て非なるものだ)が、自分もかつて自然科学分野の日本(ホゲ)学会に所属していた俺から見ても、とてもリアルで面白い。もちろん、小説として実際のものよりエキサイティングに描かれているとは思うが、実情を知っていてそれを脚色しているという感じで、想像だけで描かれる「科学者」「博士」像とは一線を画していると思う。

それだけに、もしかしたら面白くない人には全然面白くないのかも知れないが、そのケのある者が読めば、知的な興奮、論理の楽しさ、そういったものに引き込まれること請け合いだ。

実に面白い。おすすめだ。読んだら仕事にも役立つこと間違い無しだ。

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