2008年10月16日木曜日

【狂骨の夢】意外にも爽やか

京極堂シリーズは、遅ればせながら「姑獲鳥の夏」を読んでから、立て続けに読んだ。

姑獲鳥の夏は面白かった。戦後の混乱を背景にしつつ、何せ京極堂、関口、榎木津、木場、敦子、といった主要キャラの登場シーンの連続だけでも十分に楽しいし、また、妊婦/産科という・・・母と子の、幸せと無垢の象徴でありながら、ある種の非日常さを持つ存在を軸に、恐ろしくも悲しくそれでいてどこか美しい舞台は、甚だ魅力的だった。

で、その次の「魍魎の箱」(ハコの字変換で出ない)では、若いキャラクターを軸に、ナイーブな強面・”鬼の木場修”のロマンスも絡みつつ、京極堂の苦い過去もちらりと覗かせつつ、1作目とはまた少し違う雰囲気で面白かった。

で、この3作目。



今度は、魍魎の箱で、オマケ程度に登場していた”いさま屋”のトボけた味わいと、ゲストヒロインの朱美を軸に話は展開する。

最初は、おなじみの面々を差し置いて”いさま屋”の話が延々と続き、もの足りなさを感じた。が、話が進むにつれ、そのいさま屋と絡む(いや物理的にでなく)朱美の魅力が際立つ。謎多き女であり、暗い過去を背負っている様子でありながら、どこかサバサバとして気持ちのいい人物で、最初の怪しい登場から、読み進めるにしたがって、「この人が悪い人ではないように」という気持ちを抱かせるような。

その彼女の人物を浮き上がらせるのに、京極堂や関口のような濃いキャラではなく、トボけたいさま屋が適役なのだろうと、結局は理解した。

最後に大どんでん返しとかって感じよりは、徐々に徐々に「あれ?もしかして、こういうことか?だとしたら、なるほど、そういうことか?」と、事件の全貌を予想させておいて、最後に、そのもやっとしたものを、どうしようもない程にザクザクと切り刻み、白日の下にさらして「不思議なものなど何ひとつない」状態にしてしまう為に京極堂が現れる、と言うのはいつものパターン。

でも、今作は、前の2作品に比べると、いささか読後感がすっきりと明るい。それはやはり、朱美のキャラクターのせいだろうと思う。

怪奇譚が好きな一方でハッピーエンドが好きという、自己矛盾的な嗜好を持つ俺にとっては、狂骨の夢は、京極堂シリーズの中でも良い印象の作品となった。

もっとも、何人も死んでるしハッピーなわけじゃないんだがね、程度の問題というか比較の問題でね。

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